Threads vs. X:ウェルネスブランドが考えるべきSNS戦略

はじめに:数字が示す変化と、その先にある現実

世界で起きている変化

「ThreadsがXを超えた。」そんな見出しを目にした人も多いのではないでしょうか。TechCrunchが報じたSimilarwebの推計によると、2026年1月7日時点で、ThreadsのiOS・Androidにおける1日あたりのアクティブユーザー数(DAU)は1億4,150万人。対するXは1億2,500万人となり、Threadsが初めてXを上回る結果となりました。これはSNS市場における大きな節目ですが、一時の話題に惑わされることなく、各SNSの役割を本質から再検証すべきタイミングが来たことを意味しています。

Similarweb Xの投稿

ヘルスケア・ウェルネスブランドにおいて、プラットフォームの勢力図が変わるたびに乗り換えを急ぐことは必ずしも正解とは限りません。実際には、人々の関心や情報との接点が、コンテンツの形式や利用シーン、目的に応じて少しずつ分散していくだけであるケースがほとんどです。だからこそ重要なのは、「Threadsか、Xか」という二者択一ではなく、全体のマーケティング戦略の中で、それぞれにどんな役割を持たせるべきかを考えることです。

世界ではThreadsがXを上回るという変化が起きていますが、日本のSNS利用環境は依然として独自の特徴を持っています。そのため、今取るべきアクションは、一気に軸足を移すことではありません。複数のプラットフォームを視野に入れながら、小さく検証を重ね、自社に最適な運用方法を見極めていくことが、最も現実的なアプローチと言えるでしょう。

データを読み解く:モバイル利用だけでは見えないSNSの実態

モバイルDAUが重要視される理由

モバイルのDAU(日次アクティブユーザー数)が注目されるのは、それが日々の利用習慣を映し出す指標だからです。ウェルネスやライフスタイル分野に関する情報は、多くの場合スマートフォンから消費されています。通勤中に健康情報をチェックしたり、運動後に新しいトレーニング方法を探したり、気になった投稿を保存したり、お気に入りのクリエイターをフォローしたり。そうした日常の小さな接点の積み重ねは、スマートフォン上で起きています。

モバイルだけでは測れないSNSの価値

とはいえ、モバイルDAUだけでプラットフォーム全体を評価することはできません。同じTechCrunchの記事では、デスクトップをはじめとするWebブラウザからの利用においては、依然としてXがThreadsを大きく上回っていることも紹介されています。Similarwebの推計では、2026年1月13日時点の1日あたりのWeb訪問数は、Xが約1億4,540万件だったのに対し、Threads.comとThreads.netを合わせても約850万件にとどまりました。

この差は、単なる数字以上の意味を持っています。Web経由での利用は、ニュースを追ったり、情報を調べたり、リンク先の記事を読み進めたりと、より「情報収集」を目的とした行動につながる傾向があります。仕事中のリサーチや業界動向のチェックなども、その代表例です。

ブランド視点で見ると、この「Webの強さ」は目に見えにくい形で影響を及ぼします。記事からSNSへ、SNSから別の記事へと情報が広がる導線や、メディア・クリエイターが話題を追いかける流れ、さらには検索とSNSを行き来するユーザー行動にも大きく関わっています。こうした情報流通の土台を考えると、モバイルではThreadsが勢いを増している一方で、Xが依然としてマーケティング戦略上の重要なチャネルであり続ける理由も見えてきます。

世界のトレンドが、そのまま当てはまるとは限らない

日本ならではのSNS利用文化

Threadsが世界で勢いを伸ばしていても、その流れが日本でも同じように起きるとは限りません。日本は、以前からXの存在感が非常に大きい市場です。Statistaによる各国比較でも、日本のX利用者数は世界的に見ても突出した規模を維持しています。また、DataReportalの2025年度の分析によると、2025年1月時点の広告リーチベースのアクティブユーザー数は約7,090万人。アメリカに次ぐ世界第2位の市場とされています。もちろん、この数字は実際のユニークユーザー数とは異なります。しかし、日本市場においてXが依然として極めて重要なプラットフォームであることを示す指標としては十分であると言えます。

さらに視野を広げると、日本そのものが世界有数のデジタル成熟市場であることも見えてきます。DataReportalの「Digital 2025: Japan」によれば、2025年初頭のインターネット利用者数は約1億900万人。SNSアカウント数(ユーザーIDベース)は9,700万人に達し、人口の約78.6%が何らかのSNSを利用しています。近年のユーザーはすでにSNSの使い分けを当たり前としています。新しいプラットフォームが登場したからといって、既存のサービスから一斉に移行するのではなく、それぞれを目的に応じて使い分ける。そのSNS利用のスタンダードは日本も例外ではありません。

一つのプラットフォームの成長が、そのまま別のプラットフォームの終わりを意味することはほとんどありません。クリエイターとの出会い、エンターテインメント、趣味のコミュニティ、イベントのリアルタイムな盛り上がりなど、利用シーンごとにユーザーの行動が自然と分かれています。特にXは、素早く情報を発信・共有できることや、イベントや話題にリアルタイムで参加しやすいこと、長文や凝ったコンテンツを用意しなくてもコミュニケーションが成立することが強みです。ウェルネスブランドにとっても、こうした特性は小さな情報発信を積み重ねながらブランドへの親近感や信頼を育てる「プレゼンスマーケティング(存在感を高めるマーケティング)」との相性が良いと言えるでしょう。

取るべきスタンス

ヘルスケア・ウェルネスブランドにとって重要なのは、世界の利用動向を参考にしつつも、最終的な判断は国内のユーザー行動に基づいて行うことです。Threadsは新たなチャネルとして積極的に検証する価値があります。一方で、Xが現在もリーチや情報発信力、ユーザーとの接点づくりにおいて成果を上げているのであれば、その強みも引き続き活用すべきでしょう。

アルゴリズムとエンゲージメントの違い:ThreadsとXは何が違うのか

エンゲージメント率ではThreadsが優位

Threadsがマーケターから注目されている理由のひとつが、高いエンゲージメント率です。Neal Schaffer氏がBufferの分析をもとに紹介したデータによると、2024年の投稿あたりの中央値ベースのエンゲージメント率は、Threadsが6.25%、Xは3.6%。サンプルではThreadsのほうが約73.6%高い結果となっています。もちろん、これはすべてのブランドに当てはまる数字ではありません。しかし、「会話が生まれる投稿」であれば、Threadsのほうが安定して反応を得やすい傾向があることを示しています。

違いは「平均値」ではなく「ばらつき」

ただし、エンゲージメント率だけを比較して優劣を判断するのは適切ではありません。Bufferが約170万件の投稿を分析した2025年のレポートでは、中央値だけを見ると両プラットフォームに大きな差はありませんでした。一方で、大きく異なっていたのがエンゲージメントのばらつきです。Xでは標準偏差が5,000を超えており、投稿ごとの成果に非常に大きな開きがあります。ごく一部の投稿が爆発的な反応を集める一方で、多くの投稿は平均的な結果にとどまるため、少数の高エンゲージメント投稿が全体の平均値を大きく押し上げる「ハイリスク・ハイリターン」の構造になっています。一方、Threadsは投稿ごとの反応が比較的安定しており、継続的に会話を生み出すコンテンツほど成果につながりやすい傾向があります。派手なバズを狙うというよりも、ユーザーとのコミュニケーションを積み重ねることで価値を高めていく設計です。

Threads

Threadsでは、一つの投稿をじっくり読んだり、返信を通じて会話が続いたりする傾向があります。そのため、コメントのやり取りが活発になるほど投稿の寿命も長くなり、継続的なエンゲージメントを獲得しやすくなります。

X

一方、Xはリアルタイムの情報プラットフォームとして機能しています。タイムリーな話題やトレンドに乗ることで、一気にリーチが拡大する可能性がありますが、多くの投稿は中央値に近い、比較的控えめな成果にとどまります。

ヘルスケア・ウェルネスブランドにとって、この違いは決して小さくありません。ブランドへの信頼は、一度の投稿ではなく、継続的な接点の積み重ねによって形成されます。そのため、健康情報の発信や習慣づくり、コミュニティとの関係構築にはThreadsが適している一方で、タイムリーな話題への参加や社会的なトレンド、イベントに合わせた情報発信では、Xが引き続き大きな強みを発揮します。

ブランド事例で見る、アメリカと日本のSNS戦略の違い

ケーススタディ1:Nike(ブランド認知・商品訴求)

アメリカでの戦略

Nike USは、XとThreadsでほぼ同じコンテンツを配信しています。クリエイティブをプラットフォームごとに作り分けたり、プラットフォームごとに最適化した投稿を行ったりはしていません。これは単なる運用効率のためではなく、長期的な視点に立った戦略と考えられます。

現時点では既存コンテンツを両プラットフォームに展開しながら、Threads上でフォロワーやコミュニティを育成しておく。そして、将来的にThreadsを本格活用する段階になったときには、すでに一定のオーディエンスが形成されている状態を目指すという考え方です。プラットフォームごとに専用コンテンツを制作するコストを抑えながら、ブランドの存在感とリーチを少しずつ積み上げていく、効率的なアプローチと言えるでしょう。

日本での戦略

一方、Nike Japanは現在、公式Threadsアカウントを運用していません。その代わり、Xでは継続的に情報を発信しており、限定商品の発売情報やストリートウェア関連のコンテンツ、話題性を重視した投稿など、いわゆる「ドロップカルチャー」を軸とした運用を行っています。

この違いは、日本市場におけるNikeのブランドポジションを反映しています。日本では、Nikeは単なるスポーツパフォーマンスブランドというよりも、ファッションやライフスタイルブランドとしての側面が強く認識されています。そして、そのブランドイメージを支えているのが、限定商品やスニーカーカルチャーを中心としたドロップカルチャーです。

こうした情報は、「今この瞬間」の話題性が価値になります。リアルタイムで情報が拡散し、スニーカーやストリートカルチャーのコミュニティが活発に交流しているXは、その戦略と非常に相性が良いプラットフォームです。一方、会話を中心にゆるやかなコミュニケーションが生まれやすく、Instagramとの親和性も高いThreadsでは、同じ役割を担うことは難しいでしょう。

Nike Japan X

この事例から読み取れるのは、「どちらのSNSが優れているか」ではありません。Nikeがアメリカと日本で採用しているのは、それぞれ異なるマーケティング戦略です。アメリカでは、既存コンテンツを活用しながらThreadsのオーディエンスを育て、将来のリーチ拡大につなげることが目的になっています。一方、日本では、ブランドとコミュニティとの親和性を重視し、Xを主要なコミュニケーションチャネルとして活用しています。

ウェルネスブランドにとっても考えるべきことは同じです。Threadsは新たな役割を担うチャネルなのか。それとも、既存のリーチを単純に重複させるだけなのか。どちらの判断も間違いではありません。ただし、その答えによって、必要な運用体制やコンテンツ制作の考え方、そして成果を測る指標(KPI)は大きく変わってきます。

ケーススタディ2:Unilever(コーポレートブランディング・採用広報)

アメリカでの戦略

Unilever USはこれまで複数の公式アカウントを運用しており、現在もXを中心に情報発信を行っています。たとえば、Unilever本体のアカウントに加え、Unilever Venturesなどの関連アカウントもX上で継続的に活動しています。一方、UnileverUSAのThreadsアカウントの投稿数はゼロです。またUnileverは、Instagramでも情報発信を行っていますが、その内容やトーンはXとほぼ共通しています。洗練された企業広報を中心とした内容で、投稿頻度も高くありません。主なターゲットは一般消費者ではなく、メディア、投資家、業界関係者などです。

親会社としてのUnileverは、消費者が日常的に意識するブランドではありません。そのため、「企業そのものを知ってもらう」という広報活動においては、会話やコミュニティ形成を重視するThreadsとの相性は決して高くありません。Threadsを積極的に活用していない理由は、プラットフォームの優先順位を下げたからではなく、そもそもThreadsを活用する明確なビジネス上の目的が存在しないためだと考えられます。

日本での戦略

一方、Unilever Japanではまったく異なる戦略が採られています。日本法人のXアカウントは2016年以降更新されておらず、徐々に運用を縮小したというより、実質的にXから別のプラットフォームへ軸足を移したと言える状況です。現在はThreadsを主要なチャネルとして運用し、採用広報や企業ブランディングを中心に情報を発信しています。この判断には、明確なターゲット設計があります。採用活動の主な対象となる大学生や若手社会人は、Threadsとの親和性が高い世代です。さらに、Instagramと同じMetaのエコシステム上にあることで、新たなプラットフォームを使い始める心理的なハードルも低くなります。加えて、Xの速く断片的な情報の流れと比べ、Threadsのフィード環境は採用広報が求める丁寧なトーンとの親和性が高いといえます。

このケースで重要なのは、「ThreadsがXに置き換わった」という捉え方ではありません。Unilever JapanがXからThreadsへ運用を移した理由は、ThreadsのモバイルDAUが世界的にXを上回ったからではありません。そもそも、Xの更新を停止した2016年当時には、そのようなデータは存在していませんでした。意思決定の基準となったのは、どのプラットフォームがターゲットユーザーに適しているか、そしてどのようなコミュニケーションを実現したいのかという点です。この順番こそが、多くのブランドにとって参考になる考え方です。まず、「そのSNSに何を担わせたいのか」という役割を明確にする。そのうえで、日本で本当に届けたい相手に対して、どのプラットフォームが最も適しているのかを判断する。プラットフォームを選ぶのは、その後です。

戦略フレームワーク:ThreadsとX、それぞれの役割をどう再設計するか

Xをすぐに置き換えるべきではない理由

日本市場において、Xが現在も重要なプラットフォームであり続けている理由は、情報の発見性とリアルタイム性にあります。エンゲージメントにはばらつきがあるものの、イベントやトレンド、急速に広がる話題に対して、情報を素早く届けるチャネルとしての価値は依然として高いと言えます。季節ごとのキャンペーンや新商品の発売、インフルエンサー施策、あるいはブランドとして迅速な対応が求められる場面では、Xの強みが発揮されます。

また、モバイルDAUが逆転したという一つの指標だけを理由に運用リソースを移してしまうことには、少なからずリスクもあります。オーディエンスが分散してしまうことや、運用体制が分散することに加え、長年築いてきたX上でのブランド資産やコミュニティを失う可能性もあるためです。

Threadsが担うべき役割

一方で、Threadsは長期的にブランド価値を積み上げるチャネルとして位置づけるのが適しています。定期的な情報発信やQ&A、コメントを通じたコミュニケーションなど、ユーザーとの継続的な対話を促すことで、投稿は公開直後だけでなく、その後も長く価値を持ち続けます。Threadsでは、一方的に情報を届けるブランドよりも、コミュニティの会話を促し、参加を後押しするブランドのほうが成果を上げやすい傾向があります。

ヘルスケア・ウェルネスブランドへの応用:セグメント別のコンテンツ戦略

ThreadsとXの役割を決める前に、まず考えるべきなのはブランドとして何を達成したいのかということです。新商品の発売と採用活動では、適したプラットフォームも運用方法も異なります。また、長期的な啓発コンテンツを展開する場合と、短期間のキャンペーンを実施する場合でも、求められるSNSの役割は変わります。さらに、ブランドのポジショニングも重要です。科学的な根拠を重視するサプリメントブランド、ライフスタイルを提案するフィットネスブランド、そしてビジュアル訴求が中心となる美容ブランドでは、ユーザーとのコミュニケーションのあり方も異なります。当然、ThreadsとXに求められる役割も変わってくるでしょう。

こうした前提を整理したうえでプラットフォームごとの役割を定義すれば、戦略は机上の理論ではなく、実際の運用に落とし込みやすくなります。

実務では、例えば次のような役割分担が考えられます。

  • X: リアルタイムでの情報発信、最新情報の共有、トレンドへの参加、キャンペーンの拡散
  • Threads: コミュニティ形成、継続的な情報発信、Q&A、専門性や信頼性を伝えるコンテンツ
  • 共通点: ブランドとしての一貫したポジショニング、表現ルール、薬機法などを踏まえた適切な表現基準の維持

そのうえで重要なのは、プラットフォームの運用を「流行への対応」として始めるのではなく、検証すべき戦略として位置づけることです。特にヘルスケア・ウェルネス分野では、返信や引用リポストも含めて、各プラットフォームの仕様に合わせたレビュー体制を整え、エビデンスに基づく表現や法規制への配慮が、あらゆるコミュニケーションで維持されるようにする必要があります。

Threadsを導入する際は、6〜8週間程度の試験運用期間を設け、「Threadsで何を実現したいのか」という役割を明確にしたうえで、その目的に合った指標で成果を評価することが重要です。一方、Xでは引き続きリアルタイムの情報収集やタイムリーな発信、社会的な話題や文化的な出来事への参加を担わせることで、それぞれのプラットフォームの強みを最大限に活かすことができます。

まとめ:2026年に向けたSNS戦略の考え方

本記事のポイント

Threadsが世界全体のモバイルDAUでXを上回ったことは、確かに大きな節目です。しかし、日本市場における戦略として導き出される結論は、「XからThreadsへ乗り換えること」ではありません。重要なのは、それぞれの役割を見直し、最適なバランスを再構築することです。Xは現在も、リアルタイムで情報を発見・共有するプラットフォームとして、依然大きな役割を果たしています。

ヘルスケア・ウェルネスブランドにとって現実的なアプローチは、Threadsをコミュニティ育成や継続的なエンゲージメントを生み出す場として位置づけ、Xはリアルタイム性を活かした情報発信やキャンペーンの拡散を担うチャネルとして活用することです。取り組むべきなのは、それぞれのプラットフォームに明確な役割を設定し、その役割に応じた指標で成果を評価することです。重要なのは、世界のニュースや利用者数の変化だけを判断材料にするのではなく、国内のユーザーが実際にどのような行動を取っているのかを継続的に検証しながら、運用を改善していくことです。Pulse Marketingでは、こうした考え方を実際の運用へ落とし込むための支援を行っています。テスト運用の設計からコンテンツ戦略、効果測定の方法まで、日本市場に合わせた実践的なSNS戦略をご提案します。

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